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    房一はふりかへつた。

    「あんたの犬かね」

    「これから又お出掛けかね」

    「うん」

    小谷は仰山ぎやうさんな表情になつた。

    「こんなところで初対面のご挨拶をしようとは思ひがけなかつたですね。――いや、初対面といふわけでもないんですな」

    突然、練吉の顔には一種の生気が、何となくもう一人の練吉といつた風なものを思はせる疳の気配、子供染みた我儘さが顔にさし、あのひつきりのない目瞬またゝきが止んで、切れの長い目が眼鏡の奥でぢつと線を引いた。

    「いや、さういふことは人によつてはあるんだよ」

    彼が冠をとると、円味のある顎肉には紐の痕が紅く残つていた。

    「いや、それあ貰つたのが分家だから、相手はやつぱり分家の喜作さんさね」

    「これからどちらへ?」

    「さあね、もうかれこれ二十年にもなるだらうかね」

    近づきながら、何となくほの紅くなつて、中声で叫んだ。そして、房一の傍にいる小谷と徳次を認め、小腰をかゞめた。括くゝられてふくらんだ袖口からは気持のいゝ白い腕が露はれていた。

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