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河原町の人達は皆自家の仕事をはふり出して川に出ていた。彼等の悉くがこの時期には漁師になつたかのやうであつた。まるで諜しめし合せたやうに同じ麦藁の大きな帽子をかぶつて、白いシャツを着こみ、魚籠びくと追鮎箱とをガタつかせながら、めいめいの家の裏口から河原に現れるのだつた。
船体を洗ひ終つて、これから雑具にかゝらうとしたときだつた。彼はふと対岸に目をやつた。物音がしたわけでもなければ、気配を感じたのでもない。しかるに、そこの路の曲り角には、まるで符合したやうにその時きらきら光る真新しい自転車に乗つた男が現れたところだつた。
「途中から――?」
「おぢいさん、そんなに立つてばかりいないで腰をかけなさいよ」
神経質な目ばたきをしながら、練吉は口早に引きとつて云つた。
と、小谷はひとり言にしては大きい声で云つた。が、代りがないので又水の中へ放つた。
小谷はしばらく放つていた糸を手許にひきよせて、水の中の鮎を眺めながら云つた。
「まあ、それあ――」
わたしが隣座敷へ夜中に再三出入したことを、どうしてか宿の者に覚られたらしい。その翌日は座敷の畳換えをするという口実の下に、わたしはここと全く没交渉の下座敷へ移されてしまった。何か詰まらないことをいい触らされては困ると思ったのであろう。しかし女中たちは私にむかって何にもいわなかった。私もいわなかった。
「いや別に忙しいこともありませんですよ」
実際、練吉の滑つこい気持よくふくらんだ頬には、その時ちらりとした微笑の影がさしていた。
「おい、やつは所長だぜ。まだ新任で、来たばかりなんだ。――行かう!」
と、房一は帽子を手にやつた。