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「血圧は少し下つたしね」
実際、練吉の滑つこい気持よくふくらんだ頬には、その時ちらりとした微笑の影がさしていた。
「眼が潰つぶれちまふ――ねえ、先生」
「梨地から水神淵へ降りる路ができたからね、そこへ出れば、帰りはずつと楽だ」
「まあ、いゝでせう。せつかくぢやありませんか」――
と、彼は恐しく手まどつて答へた。
川では鮎漁がはじまつていた。
ふいに、徳次はしたゝかに横頬を殴られるのを感じた。容赦のない力が彼の首すぢをつかまへ、又やられた、一つ、二つ。それは、突然うしろからやつて来た。何だか判らなかつた。そして、抵抗するはずみを失ひ、きよとんとして見上げた。
が、ぴんと張つた肩衣のためによけい幅広く見える後姿で、木箱のやうな沓くつをがたつかせ、戸外の明い日ざしの中でその紅い滲んだ紙色をまざまざと照し出されながら、歩いてゆく房一を見送つたときには、紛ふことなき珍妙さが、しかも「堂々」と歩いている形だつた。そして、百何十人もの老壮若の戸主達がこのばさばさした紙で着ふくれ、列をなして歩くときの様子は、まさに観物にちがひない、といふ実感を抱かせたのである。
小谷は不安げに呟いた。
二人は自転車をひきずつたまゝ近よつた。
「その首はどんな顔をしていた」と、友達のひとりが訊いた。